リガクが代理店への「顧客満足度向上」と社内の「業務効率化」を実現。「売上アップ」にも繋がった海外向けEC化戦略。
BtoBパッケージ
1951年創業のリガクは、世界初の回転対陰極型X線発生装置(ロータフレックス)や国内初の自動記録式X線回折装置(ガイガーフレックス)を開発した“X線装置のパイオニア”だ。同社が販売するX線装置は業界をリードし、今日ではグローバルトップ企業の一角を占めている。
経営はいたって好調の同社だが、じつはある「課題」を抱えていた。それは海外販売代理店への部品供給に関することである。全社を挙げたグローバル化の推進により海外売上が大きく伸びるなか、海外アフターマーケット向け部品に関する受注業務の負担が増えていく。そのため部品供給に時間がかかり、海外顧客の窓口である代理店からの苦情が増えていた。売上が増加すればするほど、代理店に対する顧客満足度の向上もさることながら、社内業務の負担を軽減する業務効率の改善もできず、海外向け部品供給フローを早急に改善する必要があった。
その課題を解決するために2016年10月にECサイトをオープンしたところ、代理店への「顧客満足度向上」と、社内の「業務効率化」を実現し、さらに「売上アップ」にも繋がったという。多大なメリットを生み出した海外向けEC化戦略の秘訣に迫る。
株式会社リガク 基本情報
<所在地>
本社・東京工場・X線研究所
〒196-8666 東京都昭島市松原町3-9-12
<設立年月日>
1951年(2004年、社名を理学電機からリガクへ変更)
<資本金>
1億円
<従業員数>
約720名(グループ従業員数 約1,400名)
<年 商>
約370億円(2017年3月連結決算)
株式会社リガクは創業66年。X線装置のトップシェアメーカー
――リガクの事業内容を教えてください。
【村木】 1951年の創業以来、X線回折装置や熱分析装置を開発・製造し、グローバル規模で販売している「科学機器メーカー」です。
創業当時は国内にはX線回折装置が海外メーカーの製品しかない状態でした。そのときに弊社が国産初のX線回折装置(XRD)や蛍光X線分析装置(XRF)を開発したことで「X線装置と言えばリガク」というポジションを築くことができ、以後約60年間、国内トップシェアメーカーとして走り続けています。
――X線装置はどのような場面で使われているのでしょうか?
【村木】 アカデミックの分野で研究開発(R&D)、または企業が製品の品質管理をするために使われることが多いです。身近なところで使われている製品を挙げると、「X線非破壊検査装置」と「X線CT」の2つがあります。
テレビでも取り上げられることがあるX線非破壊検査装置はX線のパワーが強く、ビルの柱や、橋脚を透過することができるので、建物内部の溶接部などの劣化を調査するときに使います。X線CTは動物病院用のX線CTです。小動物を飼われている方はもしかしたら接点があるかもしれません。
日本に留まらず、欧米アジアにも海外展開
――リガクの製品は国内だけでなく、海外にも広く販売していますね。
【村木】 1972年に北米に海外初の会社を設立して以降、ドイツ(2007年)、チェコ(2008年)、中国(2009年)、ブラジル(2013年)、ポーランド(2015年)、シンガポール(2016年)と、現地法人の設立・海外顧客サポートの充実を図ってきました。
――海外拠点はどのような役割を担っているのでしょうか?
【村木】 海外拠点は主に「販売代理店をサポートする役割」を担います。北米など一部を除き弊社からエンドユーザーに直接販売は行っておらず、基本的には弊社が代理店に製品や部品を販売して、代理店がエンドユーザーに販売するという形態をとっています。
ECサイトを構築する前は代理店からメールで注文を受けていましたが、販売シェアが拡大していくに従って様々な問題が生まれました。それをきっかけにしてECサイトの構築を考えるようになりました。
一度の注文のために複数回のメールのやり取りをしていた
――ECサイトをつくるきっかけになった「問題」とは何でしょうか?
【村木】 以前はWebに部品情報を公開していませんでした。部品リストは提供していましたが、代理店が弊社に注文をする際は問い合わせの段階からメールのやり取りが必要で、この方法は注文をする代理店側、受ける側の弊社の双方に多くの手間がかかっていました。
例えば、代理店が部品、アクセサリーを購入する際、まずは「このような部品が欲しい」と弊社にメールで問い合わせが来ます。それに返信すると、「見積もり依頼」、「納期の確認」、さらに注文完了後も手元に届くまでに「今はどの段階か?」と、1つの部品、アクセサリーを売るために何度もメールが往復していました。
この方法は代理店にとっても不評でした。弊社は定期的に代理店にアンケートを取り、営業会議に参加してヒヤリングをしていますが、「注文までに手間がかかる」「意思疎通が万全ではない」という答えが多く返ってきていて、さらに市場が広がるほどやり取りが複雑になり、苦情は増えていきました。
そこで代理店に部品の情報を公開するため、まずはECサイトではなく、部品を検索できるWebサイトをつくろうという話になりました。
――ECサイトの前に受注機能が付いていない部品情報のサイトをつくられたのですね。
【村木】 そうです。部品情報サイトは2014年に完成しましたが、価格に関する社内事情があったため、部品の価格をサイトに載せることができませんでした。そのため、弊社から価格リストをメールで送ったり、代理店からメールで問い合わせがきたりと、作業効率は結局のところ、以前と変わりませんでした。
そこで2015年4月に部品情報サイトではなく、受注機能のあるECサイトを立ち上げようという話が出てきました。
ECサイト構築にecbeingを選んだ「3つの理由」
――「ECサイトをつくろう」と決まってからの具体的な流れを教えてください。
【村木】 当初は部品情報サイトに注文機能だけを付ければ、安価でECサイトをつくることができると考えていました。そこでサイトを構築したベンダーに相談したところ、フルスクラッチ(独自開発)の提案書が届きました。
フルスクラッチの場合、開発にも、完成後に追加で機能が欲しくなった場合もお金と時間がかかります。構成も複雑になるので、「フルスクラッチはやめよう」という意見が出ました。その後、情報システム部から「パッケージも検討してみた方がいい」と3社ほど候補の会社が挙がってきました。
――その中の1社がecbeingだったのですね。ecbeingに決めた理由は?
【村木】 ecbeingさんの皆様は誰でもECサイトの構築に詳しくて、私たちが質問すると、「それはできます」「その機能は既にあります」と全て即答でした。他社の事例紹介も含めた提案量も膨大で、ECサイトのコンサルティングをしてもらった感覚です。
【志村】 情報システムからecbeingさんを推した理由は3点あります。
1つは「24時間365日のサポート体制」です。ECサイトの利用者は海外が対象になるため、日本時間の夜間や早朝に届く注文が多くあります。万一、夜間や早朝にシステムのトラブルが起きた場合に対応出来る体制が必要でした。
次に「セキュリティ」です。ECサイトをクラウドで稼動させるため、セキュリティが特に重要な要件になります。ecbeingさんのパッケージは、セキュリティ対策会社であるラック社と提携し、不正アクセスやサイバー攻撃の監視、脆弱性診断などのシステム面に限らず、運用面のルールや仕組み作りなど、弊社の期待値以上の要件を担保していました。
最後に「機能拡張を前提としたパッケージ」です。ecbeingさんのパッケージが弊社の業務と適合率が高かったとはいえ、業務上必須となる不足機能はカスタマイズで追加する必要がありました。経験的には、パッケージのカスタマイズは費用が膨らむ傾向にありますが、ecbeingさんのパッケージは拡張することを前提に組み上げたアーキテクチャーなので費用を抑えることが出来ました。複数他社と比較した結果、この3点が決め手となり、情報システム部はecbeingさんを推薦しました。
【村木】 ecbeingさんのパッケージで唯一の懸念点を挙げるとすれば、英語対応がないことでした。結果的に、弊社が英語表記のテキストを用意して英語版もつくってもらうことになりましたが、それを差し引いてもこれらの理由からecbeingさんにお願いしたいと思いました。
ECサイトを構築したメリット1. 業務効率化
――ECサイトを実際につくってみて感じたメリットを教えてください。
【村木】 2016年10月にECサイトをスタートして、現在は注文の7割がECサイトになっています。価格記載の問題も、利用者に限定してIDを配布する形にすることでクリアできました。注文をECに集約できたことで、メールのやり取りの手間が圧倒的に減りました。
代理店側はECサイト上で部品を選択すれば見積もりが自動で出ますし、注文後の状態も5段階でチェックできるので、弊社へ問い合わせる必要がなくなりました。以前は東京本社と大阪支社の月合計で約500通のメールが届いていましたが、感覚的には3分の1から5分の1まで減りました。
【根津】 「注文書」のスタイルを統一できたことも効率化に繋がっています。以前は注文書の内容が代理店ごとに異なり、部品番号が載っているところもあれば、品名のみの注文書もありました。そのため、部品番号が載っていない注文書などは部品を特定するまでにメールでのやり取りを何度もするなど、手間と時間がかかっていました。
ECサイトで注文を受けるようになってからは注文書が統一されたため、注文番号などの情報が全て記載されて届くようになりました。おかげで作業の効率化ができて、さらに輸出用のインボイスも統一したスタイルで書けるようになったため、通関からの問い合わせも減り、外部とのやり取りの手間も省けるようになりました。
【上月】 注文書を統一できたのは大きいです。部品はタイプが複数あるので品名しか書いていない場合は特定するのに知識や経験が必要で、時間もかかっていました。でも、ECサイトオープン後は業務経験の少ない新人にもある程度は仕事を任せることができるようになりました。
また、海外は時差があるので、以前のメールベースでは問い合わせのやり取りに時間がかかり、代理店から購入するエンドユーザーに商品が届くまで待たせてしまうことがありました。ECサイト構築後は「在庫」「見積」「納期」を全て購入側がECサイト上で確認できるようになったので、代理店の注文・納品までの時間を短縮できるようになりました。
ECサイトを構築したメリット2. 売上アップ
――ECサイトをオープンしたことで売上に影響はありましたか?
【上月】 売上もアップしました。海外は日本と違って、製品が故障する前にメンテナンスをして、消耗している部品を変えるという文化がありません。
だから部品が消耗していることがわかったら、その部品1つだけを変えるお客様が多いです。でも、弊社からすると、1つの部品が消耗しているということは他の部品も消耗しているケースが多いので、安定稼働のために「セットで交換してほしい」と前からお願いを続けていました。
その点、ecbeingさんのECサイトにはパッケージ機能に「セット部品販売」があったので、「消耗品セット」をつくってECサイトで販売をはじめました。結果的に、お客様はセットを購入してくださり、お客様の装置の安定稼働を実現するだけでなく、弊社の売上増加にも繋がっています。ecbeingさんのパッケージ機能は販売先ごとに単品売りをできるようにするなどの設定も細かくできるので、痒いところに手が届くシステムだと思います。
【根津】 「キャンペーン」機能も売上アップに繋がっています。以前は上月が言うように、弊社の部品販売は明確な販売促進のツールがなく、受け身の状態だったため、営業努力をすることが難しい面がありました。
でも、ecbeingさんのパッケージには「キャンペーン」機能があるので、部品の在庫状況に応じて一定期間のディスカウントをするという方法でキャンペーンを実施しています。実際に販売促進に繋がっています。
ECサイト構築は「大成功したプロジェクト」だった
――社内での作業は具体的にどの程度減りましたか?
【村木】 以前は受注業務を2人で担当していましたが、それでもオーバーフローの状態でした。でも今は、1人でスムーズに回せるようになったので、余った工数分はECサイトの部品情報の写真や価格、部品番号の変更など、メンテナンスに使い、クオリティアップに繋げています。
――代理店側の反応はいかがですか?
【根津】 アンケートを見ると、満足してもらっていると実感しています。北米の拠点からは「お客様のところにいるサービス員と電話で注文を受ける事務担当が同じWeb画面を見ながらやり取りができるので、注文間違いがほぼなくなった」という感想がありました。また、先日、アジアから研修で来たグループ社員も「作業が楽になった」と言っていました。
――システム側の感想も教えてください。
【志村】 新しいシステムを導入すると、一般的には大きなトラブルが発生したり、システムや業務がストップしたりすることがよくありますが、今回は全くそのようなことがなく、微調整をしているだけです。
【村木】 並行して行ったコンテンツ作成や、部品の写真撮影などの苦労がありましたが、作業効率化ができて、売上アップもしたので、本当に成功したプロジェクトだったと思います。
ECシステム構築で悩んでいる方へのアドバイスを
――最後にECシステム構築に悩んでいる企業へアドバイスをお願いします。
【村木】 フルスクラッチでECサイトを構築すると、開発費用と制作期間のどちらも多く必要になります。要件定義も相当長くなり、将来使うであろう機能についても考えなくてはなりません。通常業務と並行してプロジェクトを進めるため投入工数を少しでも下げたいと感じていました。でも、私たちが今回選択した「パッケージ」は、最初からECサイトを開発する必要がなく、必要な機能だけをピックアップできるので、フルスクラッチに比べて工数を使わずに構築できるところが非常によかったです。
【志村】 ECサイトを構築する場合、システムに要求する機能もそうですが、業務を回すための知識や、売上増加に繋げる仕掛けなど、システム以外の見識も必要になります。そのため、単にシステムを構築するだけでなく、業務課題についてもアドバイスをもらえる経験豊富な人達にサポートしてもらうことが重要になると思います。
【インタビュイー】
村木晴久
根津麻理子
上月利晃
志村圭介
●取材・文:廣田喜昭