「郷に入っては郷に従え」PDCAを繰り返すことで商品を海外で販売するコツが見えてくる〜『ダイアナ』の越境・グローバル戦略〜
越境EC
戦後間もない1948年に婦人靴専門店としてスタートしたダイアナは、開業以来70年で「店舗数104店、年間売上高159億円」の企業へと発展した。
同社の販売するパンプスは20〜30代の女性を中心に人気を集めているが、その人気は国内にとどまらず、2011年からは「越境EC」を活用して海外へも販路を拡大している。
それから約7年が経過する今、同社はどこに課題を感じ、またグローバルへの可能性を見出しているのか?
同社の小河正義さんに話を聞いた。
ダイアナ 基本情報
<社 名>
ダイアナ株式会社
<設立年月日>
昭和28(1953)年
<事業内容>
婦人靴・ハンドバッグを中心としたオリジナルブランドの販売・商品企画
<従業員数>
557名(男性155/女性402) ['17年2月決算時数]
<売上高>
159億5879万円('17年2月決算時実績)
<所在地>
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-8-6
メイドインジャパンの靴を海外に適正な価格で販売する
――婦人靴を販売するブランドは多数ありますが、その中でのダイアナ様のこだわりや他社と差別化しているポイントを教えてください。
弊社は「メイドインジャパン」にこだわっています。
靴の素材自体は海外の革を輸入することもありますが、製造は全て国内の生産工場で丁寧につくっており、完成した靴はダイアナの直営店舗のみで販売しています。
工場の担当者との関係性が強く、弊社の商品企画担当者と工場側が密にコミュニケーションを取ることができるため、弊社の靴に対する細かいこだわりを理解してもらったうえで製造ができていると自負しています。
このダイレクトバイイングのスタイルは価格にも好影響を及ぼしていて、高いクオリティの靴を適正な価格で提供できる点が弊社の強みですね。
――1977年にダイアナインターナショナル株式会社を立ち上げられています。このあたりから海外への販売を意識していたのでしょうか?
ダイアナインターナショナルは海外に向けて販売するための会社ではなく、海外の商品を日本で販売したり、フランスやイタリアの靴の良い点を弊社に取り入れたりするために設立した会社です。
海外向けの販売は2000年代から検討をはじめ、本格的に動きだしたのは中国の経済が発展し、国内の弊社店舗に中国からの多くのお客様が買い物に来るようになった2010年頃ですね。来日して商品をお買い上げ頂ける状況であれば、海外向けの販売もニーズが確実にあると考え、2011年に海外向けのEC事業をスタートしました。
越境ECの国別シェアは中国が9割
――海外向けEC、いわゆる「越境EC」は何か国対応でスタートしたのでしょうか?
物流の仕組みが日本郵便のEMS(国際スピード郵便)を使っているため、国際郵便が届く国は全て対象になっています。
これまでに注文があった国は20か国ほどで、中国、シンガポール、台湾、アメリカ、チリ、オーストラリア、オランダ、イギリス、ドイツ、フランス、スイス、ロシア、モンゴル、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、アラブ首長国連邦などがありますね。
ただ、国別のシェアでいうと、現在は中国が9割を占めている状況です。
――現在のEC化率は?
国内向けECと越境ECと合わせて全体で3〜4%程度と、まだまだ少ない状況です。
ただ、越境ECのEC化率向上のポテンシャルは十分に感じています。その理由は、日本と比べて海外のほうが圧倒的に人口が多いからです。現在、シェアトップの中国は人口が13億人以上いるので、ざっくりと女性が半分と考えると6.5億人のターゲットがいるわけです。
特にアジアの場合、日本人の「足型」と似ているので、日本で販売している靴をそのまま販売できるというメリットがあります。欧米の場合は日本人より足が細くて甲が薄いと言われているので、弊社の靴の形状では足に合わない場合があります。
現状、弊社は海外にリアル店舗を出店していないため、海外での知名度は低いのでEC化率も低いと考えています。これから認知を広げていくことができれば、向上するポテンシャルは十分にあると考えています。
――越境ECで最も売れている商品を教えてください。
ベージュや黒のローヒールなど、プレーンのパンプスが売れる傾向にありますね。
数年前はデザイン性が強く、色味があるヒールの高さが10センチぐらいあるようなパンプスがよく売れましたが、日本がカジュアルブームになって以降、そのトレンドがソーシャルメディアなどを通じて中国を中心とした海外へと伝わり、同じようなトレンド傾向になっています。
認知度の低い海外。越境ECでは取り扱い商品が明確にわかるデザインに
――越境ECの制作時の話を聞かせてください。海外に実店舗がないなかで越境ECをつくるにあたり、苦労された点は?
一番のハードルは「言語の壁」でした。
最初に中国語版と英語版をつくったのですが、商品の説明ページやメールでの問い合わせのやり取りで微妙なニュアンスの食い違いがあり、なかなか私たちの思った通りの内容が伝わらずに苦労しました。
この点は社内で勉強したり、お客様にご指摘いただいたりするなかで、ブラッシュアップして精度を高めていきました。
――システム構築時に最もこだわったポイントも教えてください。
1つは多言語化に対応することです。最初は中国本土で使われる簡体字のみでしたが、ローンチ後に台湾と香港のお客様もよくご購入いただいていることがわかったので、台湾や香港で使われる繁体字のページも作成しました。
また、デザイン面も意識しました。国内向けのECは既に弊社は認知度があるため、メインにビジュアルを大きく使い、ダイアナの世界観を打ち出すデザインにしています。一方、海外では認知度が低いので、親近感のあるデザインにして、商品ラインナップを全面に押し出し、「女性のファッションシューズブランドで、こんなに豊富な種類の靴を販売しています」ということがわかる設計にしています。
ecbeingのエンジニアは「小売業の感覚を理解している」
――越境ECのシステム構築のパートナーにecbeingを選んだ理由は?
2011年に越境ECをつくる前、2007年に国内向けECを制作していて、そのときにecbeing様に依頼したことがきっかけです。
2006年頃にECはこれから伸びると判断して、最初は他社のパッケージを使って運営していました。1年後、さらに本格的にリソースを投資してECを拡大しようという話になり、数多くのシステムを検討した中で出会えた1社がecbeingでした。
直接会って話を進めるなかで、ecbeingのシステムは管理方法や操作性がスムーズで、弊社がやりたいと思っているビジョンを実現できるパッケージであることがわかりました。加えて、ecbeingのエンジニアの方は小売業の感覚をわかっていて、弊社のお客様のことを考えたうえでご提案いただいたことも大きかったですね。
2011年に越境ECをつくる際は、国内向けECを4年間運営していくなかで、安定感、信頼性、スタッフの親切なフォロー体制を実感していたので、依頼したいと思いました。
――国内向けECの話が出ましたが、越境ECとはどのような関係性があるのでしょうか?
国内向けECで実践して反響のあったものを越境ECにも実装するという考え方を大切にしています。
たとえば、国内向けECでポイント制度を2011年から開始したところ、ロイヤルカスタマーの創出に役立つということがわかりました。そこで早速、越境ECにもポイント制度を実装し、会員に送るメールマガジンでは冒頭にポイント数を提示して、「早く使おう」と購入喚起を促す工夫をしています。
――現時点での越境ECにおける課題を教えてください。
1つはカスタマーサービスですね。
弊社越境ECの9割のシェアを占める中国では、ECサイトの問い合わせ形式は「チャット」が主流になっていて、問い合わせを投げかけるとすぐに返答が来るという流れになっています。その点はまだ対応できていないので課題に感じています。
もう1つは決済サービスの対応です。
現在はPayPalやAlipayを導入していますが、中国では“中国版LINE”と言われるWeChatの決済システム「WeChat Pay」が人気になっています。このような変化の流れに対応していかないと、「サービスの悪いサイト」と判断されてしまうので、この点も常にアンテナを張り続ける必要があります。
「郷に入っては郷に従え」の精神でPDCAを繰り返す
――ありがとうございました。それでは最後に、「越境EC」をこれから導入する企業に向けてアドバイスやメッセージをお願いします。
アドバイスを言える立場にはありませんが、越境ECは各国のデータをリアルタイムで抽出することができるので、国によるニーズの違いを把握しながら、リアル店舗の出店計画など、新たな計画を立てることができると考えています。さらに、グローバルで会員データを購入履歴と結び付けて、全世界的なマーケティング施策を打ち出すことができるのも大きな魅力です。
越境ECは実際にやってみてもなかなか売上があがらないので、中断してしまう企業が多くあるというお話を聞くこともありますが、諦めずにPDCAをコツコツまわしていくと何がネックになって受注に繋がらないのかが少しずつ見えてきます。
改善するためには「郷に入っては郷に従え」の精神で、日本で通用していた方法を押し通すのではなく、何がマッチするのかの見極めを行うことが重要だと思います。
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ダイアナ株式会社
小河正義(おがわ・まさよし)
●取材・文:廣田喜昭