東南アジア(ASEAN)のEC市場動向
東南アジアはまだまだ発展途上の国々が多いですが、かつての日本や中国のように経済発展が進むことや、第4次産業革命の波を受けた急速なEC市場の拡大が予測されています。
今回はASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国を中心に、東南アジアのEC市場動向について見ていきましょう。今後東南アジアへの越境ECを進めていく事業者も多いので、ぜひ市場をチェックしていきましょう。
ASEAN加盟国(2018年2月19日時点)
ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム
・東南アジアのEC市場
>EC化が比較的進んでいるシンガポール
>スマートフォン使用者が増えているインドネシア
>BtoCno EC市場が拡大しているタイ
・東南アジア市場の越境EC
・拡大する東南アジア市場
東南アジアのEC市場
市場を考えるうえで重要な東南アジアの人口やGDPについて見てみましょう。
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外務省のASEAN経済統計基礎資料によると、2016年のASEANの人口は6億3,862万人で日本の約5倍です。しかし、1人あたりのGDPは日本の約1割程度しかありません。EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)と比較しても人口は多いのにGDPが大変低く、経済規模は小さいです。成熟していない市場なので、大きなポテンシャルを秘めているといえます。
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EC化が比較的進んでいるシンガポール
シンガポールは2016年の外務省の情報では人口561万人とASEAN全体の1%にも及びませんが、東南アジアのEC市場を牽引する重要な国です。
Googleのコンシューマーバロメーター(※2)によると、2013年のシンガポールにおけるスマートフォン使用者の割合は72%、毎日インターネットにアクセスする人の割合は64%でしたが、2017年では使用率91%、毎日インターネットを使用する人は76%にまで増加しています。インターネットの普及率も高く、GDPも高いシンガポールは東南アジアで最もEC市場が成熟している国ですが、2016年に発表された米グーグルとテマセクの調査では、小売り全体に占めるECの割合は2%程度とわずかなので今後の拡大が期待されます。
またシンガポールは、東南アジアで最も大きなECモール「Lazada(ラザダ)」が拠点を構えている国です。Lazadaをアリババグループが買収したり、2017年にはAmazonが商品注文後2時間以内に配送する「Amazon Prime Now」を展開したりするなど、東南アジアのEC市場を獲得するために大手各社が動き出しています。
スマートフォン使用者が増えているインドネシア
ASEANの人口約4割がインドネシアで、2016年のGDPは9,323億米ドルとASEAN全体の3分の1以上を占めていますが、1人あたりのGDPは3,570米ドルと低く、シンガポールの1割にも及びません。
Googleのコンシューマーバロメーター(※2)によると、2017年の毎日インターネットにアクセスする人の割合は45%と低い数値で、日本の78%と比べるとまだまだインターネットの使用は日常的ではありません。
しかし、インドネシアのスマートフォン利用率は着実に増加しており、2013年時点では14%だった割合が2017年では60%までに増えています。日本のスマートフォン使用者の割合は2017年時点で64%なので大きく変わらず、インドネシアでは4年間でスマートフォンが急速に普及したことが分かります。
人口の多さや近年においてのスマートフォンの急増からも、インドネシアは東南アジアEC市場の中で最も大きなポテンシャルのある国といえます。今後の経済発展と合わせてインターネットの普及が進み、物流や決済の問題が解消されれば一気に市場が拡大すると予測できます。
BtoCno EC市場が拡大しているタイ
JETROによると、2015年のタイのBtoC-ECの市場規模は前年から15%ほど、さらに2016年は7,293億バーツとなり前年比43%と大きく伸びています。
Googleのコンシューマーバロメーター(※2)にてタイの2014年から2016年のスマートフォン使用状況を確認したところ、スマートフォン使用者の割合は2014年が40%、2015年は64%、2016年は70%と2年間で30%も急増しています。それに連動して毎日インターネットにアクセスする人の割合も31%、47%、53%と2年間で20%以上に増えています。
EC市場の拡大には配送や決済システムの整備も必要ですが、タイのBtoCにおけっるEC市場が急速に拡大している背景には、スマートフォンとインターネット普及が大きいことがうかがえます。
東南アジア市場の越境EC
東南アジアEC市場が成熟すれば越境ECも活発になると推測できますが、日本独自の課題もありそうです。
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経済産業省の調査によると、2013年の東南アジア5カ国のEC市場規模推計は2,935億円で、そのうち約14%が越境EC市場です。2013年の日本のBtoC-EC市場規模は約11兆円だったので、それと比較すると約3%程度と小さな市場といえます。
しかし、これからの日本は少子高齢化で人口が減少していくため、国内だけではいずれEC市場は縮小していきます。そこで今後の拡大が予想される東南アジアのEC市場を見据えた越境ECは重要なポイントになります。
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経済産業省の調査によると2013年の東南アジア5カ国の越境EC市場規模のうち、日本への越境EC利用率は8.7%程度です。
「越境ECにおける不安・不便に思うこと」という質問に対する回答では、関税の負担や配送にかかる日数、実物を確認できないこと、配送料金など越境EC特有の問題が上位にきていますが、日本への越境ECの問題点はサイト言語に関する不安が大きいことが分かっています。
言語が分からないと商品の詳しい情報が得られず、配送やサービスについても理解できないため、さまざまなトラブルにつながります。そのため多言語対応のサイトにしたり、イラストを交えて説明したりするなど「伝わる情報」を提供し、海外ユーザーの不安を軽減することを優先的に行う必要があります。
拡大する東南アジア市場
東南アジアのEC市場はまだ小さいですが、牽引役となりそうなシンガポール、BtoCが急速に拡大しているタイ、スマートフォンの普及が進み大きな可能性を秘めたインドネシアなど市場拡大に向けての要素が詰まっており目が離せません。
東南アジアのEC市場を獲得すべく既に複数の企業が対抗する状況ですが、日本も将来縮小する国内市場を見据えて、越境ECの重要なターゲット国として考えておく必要がありそうです。
※1出典:外務省ホームページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asean/
資料:ASEAN経済統計基礎資料
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000127169.pdf
※2 Googleのコンシューマーバロメーター対象ユーザー層:シンガポール、インドネシア、タイは16歳以上、日本は20歳以上が対象
※3出典:経済産業省ホームページ
平成25年度我が国経済社会の情報化・サービス化に関する基盤整備 日アセアン越境電子商取引に関する調査
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/
ec/2013_summary_on_japan_asean_cross_border_ec_survey.pdf