オフィシャルECサイトにすることで、商品購入へのスムーズな導線づくりに成功 ターゲットの若年層の取り込みに成功した、タニタのECリニューアル戦略
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タニタが企業として掲げているメッセージは“「健康をはかる」から「健康をつくる」へ”だ。同社はこのメッセージの通り、体組成計や血圧計などの“健康をはかる”計測機器を製造・販売するだけでなく、タニタ食堂やタニタカフェ、女性向けのサーキットトレーニングのフィッツミーといった健康を“つくる”ソリューションを提供する企業へと進化を続けている。
ECサイトは「健康はかりや」から2014年に「タニタオンラインショップ」へと、リニューアルを実施。
そこで今回は株式会社タニタ ブランド統合本部デジタルマーケティング推進部の松ヶ瀬浩武さんに、リニューアルの背景と実施後の変化について聞く。
タニタ 基本情報
<社 名>
株式会社タニタ
<設立年月日>
創業1923年、設立1944年
<事業内容>
家庭用・業務用計量器(体組成計、ヘルスメーター、クッキングスケール、活動量計、歩数計、塩分計、血圧計、睡眠計、デジタルカロリースケール、タイマー、温湿度計)などの製造・販売
<従業員数>
1,200人(グループ)
<資本金>
5,100万円
<所在地>
〒174-8630 東京都板橋区前野町1-14-2
日本初、世界初の健康計測機器を多数開発してきたタニタ
――タニタ様の沿革を拝見すると、1923年の創業時はシガレット・ケースや貴金属宝飾品製造販売と、今とは業態が異なりますよね。現在の「健康」へとシフトしていった背景は?
1944年に社長に就任した谷田五八士(たにだ いわじ)が「今後は日本も健康に関心が集まる時代になる」と予見し、体重計をつくったことがきっかけです。1959年には体重計の量産化に着手しました。
設立から70年以上経過した現在は、健康サービスを提供するタニタヘルスリンク、飲食事業のタニタ食堂やタニタカフェ、女性向けのサーキットトレーニングのフィッツミーなど、健康に関するソリューションをハードからソフトまであらゆる生活者に提供する健康総合企業となりました。
―「日本初」「世界初」の健康計測機器をたくさん開発・販売されているんですよね。
ものづくりへのこだわりと日本初や世界初の商品を手掛けてきました。その言葉とおり、世界初の乗るだけで体脂肪率がはかれる「体内脂肪計」」日本初の「透明電極を使用した体組成計」など、最近では体組成計の新指標として世界初の「筋肉の質(筋質)がはかれる体組成計」を製造・販売しました。
1990年には有料会員制の減量指導施設「ベストウエイトセンター」を本社内に開設しました。そこではクリニック、運動施設、レストランの三つの施設があり、レストランでは500kcal前後、塩分3g前後の食事を提供していました。
ベストウエイトセンターが閉設後は、社員向けのレストランとなりました。現在もタニタ本社の社員食堂のレシピとして受け継がれています。
ECサイトを含む複数のサイトのリニューアルと統廃合を実施
――ECサイトも運営されていますが、そもそもスタートしたのはいつ頃で、どのような背景があったのでしょうか?
2000年に「健康はかりや」という名前でECサイトをオープンしています。オープンした理由は「販路の補完」だったと聞いています。お客様が家電量販店や大手GMSに買いに行けない、また店頭では売っていないというケースがあるので、その機会損失を埋めることが目的でした。
ただ、当時のサイト「健康はかりや」は、弊社の公式なECサイトという位置づけではなく、タニタの社名は入れずに運営していました。その理由は、当時はまだ各企業がECサイトを今のように当たり前にもっている時代ではなかったので、販売店から「なぜメーカーが直販しているのか」とクレームを受ける可能性があったからです。
その後の時代の変化もあり、2014年にECサイトを弊社のオフィシャルなものとしてリニューアルしました。
――「オフィシャルの位置づけにする」こと以外に、リニューアルの際に意識した点はありましたか?
当時、ECサイトだけでなく、コーポレートサイト、取引先向けの情報サイト、業務用商品に特化したサイト、健康情報を提供するサイトなど、タニタ内でいろいろなサイトが乱立している状態でした。
それぞれの運用が滞っていたり、コストも見合わない面があったので、全体のリニューアルと統廃合を進めることにしました。だから実施したのはECサイトのリニューアルだけではなく、タニタとしての“統一感”を出すことを意識しながら複数のサイトのリニューアルと統廃合を実施しているんです。
――ECサイトもその中の1サイトという位置づけですね。では、具体的にはどのようにリニューアルに向けて動き、なぜecbeingに決めたのでしょうか?
私はもともとWebの専門家というわけではなく、別の部署から現在の部署に異動して、手探りで運営をしていました。そのため、深い知識もなく、発注経験もなかったため、どの会社に頼むのがベストかはわからない状況だったんです。
そこでまずは複数の企業に声をかけ、話を聞くことからはじめました。そのとき、全ての企業に対して「御社が力を入れているのはどこですか?」と質問していたのですが、ecbeingさんからの返答は「セキュリティ」でした。
私は当時、セキュリティという考えが頭の中にありませんでした。でも安定運営を続けることは大事だとは思っていたので、さらにecbeingさんに話を聞いてみることにしました。その結果、この会社であれば基本がしっかりしているので、安心して長く運営をお願いできると感じたんです。
若年層ターゲットの取り込みに成功
――決定してからリニューアル完了まではどのぐらいの期間がかかりましたか?
9カ月ほどですね。当時、タニタグループとして13ほどのサイトがあり、そのリニューアルと統廃合を一度に進めたので、最初にecbeingさんに見せるRFPをつくったところ70ページほどの大作になってしまいました。これを読んでいただくのは申し訳ないと思いましたね(笑)。
――ECサイトで大きく変えた部分を教えてください。
まずは先ほど言った「オフィシャルサイト」にするという部分です。ECサイトの名称を「健康はかりや」から、社名を入れた「タニタオンラインショップ」へと変更しました。これによって、新商品の発売などをお知らせする際に自社のECサイトへの導をつくれるようになりました。
――リニューアルをしたことで具体的な変化は生まれましたか?
以前からタニタとして「若年層へのアプローチ」に力を入れているのですが、ECサイトリニューアル後に若年層向けのコラボ商品などを販売するようにしてから、20から30代の購入者数が増えました。
「ミニ四駆スケール」(タミヤ)、「セガサターン体組成計」(セガ)、おそ松さんオリジナル体組シェー計(おそ松さん)など、若年層に人気の企業やコンテンツとコラボした商品をつくり、ECサイトで販売しています。
これらの商品はECサイトのためだけに開発したわけではないのですが、リニューアル前は実施していなかった施策です。若者に健康を意識してもらう、ということはタニタとしてやっていきたいことなので、ここは今後も力を入れていきたいポイントですね。
今後の課題は「グループサイト間の連携」
――ECサイト運営における、今後の課題を教えてください。
ECサイトのリニューアルと関連サイトの統廃合を実施しましたが、グループ内のサイト全体での会員データやポイントの統合はできていません。グループ内のサイトとの連携は今後の大きな課題ですね。
また、今回のリニューアルによって“綺麗な箱”をつくることはできましたが、中身の整理はできていない状況です。コンテンツや表現などは常に見直して、クオリティを上げていく必要があると感じています。
弊社は多くの方が「健康関連の優良企業」と良いイメージで見てくださっているので、そのイメージに追いつける企業にならないといけません。そのためにも、「体脂肪とは何か?」など、健康に関する情報もしっかり発信していくことも大切だと思っています。
――ECの運営で注意している点はありますか?
「お客様に対して誠実である」という点ですね。商品詳細ページの文言などは、できる限り、正直に書くようにしています。たとえば、人気のコラボ商品は一気に売れるので、配送が遅れることやすぐに売り切れてしまうことがあります。その場合の対応も、事前にお知らせするようにしています。
一度にリニューアルを行わず、優先順位をつける
――ありがとうございました。最後に、これからECサイトのリニューアルを考えている企業に向けて、アドバイスや注意点をお願いします。
既に多くの企業がEC事業に取り組んでいるので、実際のサイトを見ることができますし、その成功例や失敗例をこのような記事で読むことができます。たくさんのサイトや記事を読んで参考できる点は良かったと思います。
今回失敗した点を挙げるとすると、複数のサイトを一気にリニューアルしようとした点ですね(笑)。対象が多くなるとリニューアルの定義が甘くなったり、そもそも定義が抜けてしまったりしたので、重要なものから順番にやっていくことをおすすめします。
松ヶ瀬浩武(まつがせ・ひろむ)
株式会社タニタ ブランド統合本部デジタルマーケティング推進部
●取材・文:廣田喜昭
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