ECサイトで広まる「ダイナミックプライシング」とは?価格を変動させるメリットと導入事例を紹介
航空業界やホテル業界では以前から採用されていた「ダイナミックプライシング」が、近年他の業界でも注目されているのはご存知でしょうか?特に、ダイナミックプライシングと相性が良いとされているのがECの分野です。
今回は、ダイナミックプライシングについての基礎知識とECでの活用方法について、さまざまな業界での導入事例を交えて解説していきます。
航空業界やホテル業界では以前から採用されていた「ダイナミックプライシング」が、近年他の業界でも注目されているのはご存知でしょうか?特に、ダイナミックプライシングと相性が良いとされているのがECの分野です。
今回は、ダイナミックプライシングについての基礎知識とECでの活用方法について、さまざまな業界での導入事例を交えて解説していきます。
ダイナミックプライシングとは
そもそも、ダイナミックプライシングとは何か、というところから確認していきましょう。
ダイナミックプライシングとは?
「ダイナミックプライシング」とは、需要と共有のバランスや販売状況に応じて提供する商品・サービスの価格を変動させることを指します。
航空業界やホテル業界ではすでにポピュラーな手法で、シーズンや混雑状況によってホテルや航空券の値段が変化しているのは、ダイナミックプライシングによるものです。このダイナミックプライシングが、近年他の業界でも注目を集めているのです。
ダイナミックプライシングのメリット
ダイナミックプライシングのメリットは、収益を最大化できるという点です。
需要が多く、供給が追いついていない状況であれば、値上げしても購入してくれる消費者も少なくありません。一方で、供給過多となっている状況では、値下げをしなければ在庫を処分せざるをえなくなることもあります。需要と供給のバランスを鑑みて、価格を柔軟に変更することで、収益を最大化できるのです。
ダイナミックプライシングのデメリット
一方で、ダイナミックプライシングには注意すべきデメリットもあります。
・コストがかかる
ダイナミックプライシングを導入するためには、商品の価格を自動で変更するためのツールが必要となります。ツールの導入にはコストがかかるうえ、運用のための人件費もかかるでしょう。導入する際には、コストをかけても利益をあげられるのかを事前に検討しておかなければなりません。
・頻繁な価格変更で顧客が離れる可能性も
また、頻繁に価格が変更されると、消費者から儲けに走っているといったマイナスのイメージを抱かれ、顧客が離れてしまう可能性もあります。しかし、ダイナミックプライシングは、顧客にもプラスになりうる施策です。導入時に利用者へのメリットなどもアピールすることが重要になります。
・適切な価格設定が求められる
当然ながらダイナミックプライシングでは、何をもとに価格をどれだけ変更するかというルール設定が極めて重要になります。設定したルールが適切でなければ、かえって売り上げが低下してしまうことも考えられます。特に、ダイナミックプライシングの中でも、価格変動のルールを自分で設定する場合は、確かな分析に基づいてルールを決めなければなりません。
ダイナミックプライシングの仕組み
ダイナミックプライシングの価格の決定方法は、ツールによってさまざまです。ここからは、何に基づいて価格を変動させているのか、について説明します。
競合他社の商品の価格に基づいて価格を決める
1つ目の仕組みは、競合店で販売している商品のデータを監視し、そのデータに基づいて価格を決定する、というものです。商品ごとに下限価格と上限価格を設定し、競合の商品が自社のものより安くなっている場合は値下げを行い、自社の製品が最安値になるような仕組みが一般的とされています。ほかにも、商品ごとの販売目標を設定し、目標数に達していない商品は値下げを行うなどの仕組みも存在します。
これらの仕組みは手動で設定するもので、この価格決定の方法は「ルールベース」とも呼ばれています。
機械学習に基づいて価格を決める
もう一つの仕組みとして挙げられるのが、機械学習に基づいた価格決定です。機械学習で扱うデータは、自社製品の価格や販売数、競合他社の製品の価格などの販売データだけではありません。天候や周辺で実施しているイベントなど、消費者の購買意欲に影響を与えるデータも学習させて需要予測を行い、それに基づいて価格を決定するのがこの仕組みの特徴です。外的な要因も考慮して適切な価格を算出するため、競合他社の製品価格をもとにした価格決定よりも精度は高いとされています。
ダイナミックプライシングの活用事例
ダイナミックプライシングは、すでにさまざまな業界で活用が進んでいます。ここからは、いくつかの業界におけるダイナミックプライシングの活用事例を紹介していきます。
Amazon
ダイナミックプライシングを導入している企業として広く知られているのがAmazonです。Amazonで販売されている商品は、価格が一日に複数回変動するのが当たり前で、ダイナミックプライシングの導入は他社よりも早いタイミングで行われていました。2013年の時点ですでに、一日に合計250万回もの価格変更が行われていたというデータもあります。さまざまな業界にダイナミックプライシングが広まったのは、Amazonの導入がきっかけとなったとも言われています。
Airbnb
ダイナミックプライシングを早期から導入している分野の一つとして知られるのが旅館・ホテル業界です。民泊仲介サイトを運営しているAirbnbでは、民泊のホスト向けに「スマートプライシング」という機能を提供しています。スマートプライシングは、宿泊料金の下限と上限などの情報を入力するだけで、システムが自動で価格を決定してくれるというものです。予約数を最大化するために、シーズンやエリアの人気度、レビュー状況などに応じて自動で価格が変更される仕組みとなっています。
参考:中の人が語る、「スマートプライシング」のメカニズム
中日ドラゴンズ
近年では、スポーツ観戦の分野においても、ダイナミックプライシングが普及し始めています。日本のプロ野球球団「中日ドラゴンズ」は、2021年のレギュラーシーズン全71試合のチケット販売について、一部座席でダイナミックプライシングを導入することを発表して話題になりました。対象となるのは、球団の本拠地バンテリンドームで開催される試合のチケットで、価格は試合日程やチームの状況、過去の販売実績などに基づいて決定されているとのことです。
参考:AIがチケット価格を算出 ダイナミックプライシング導入のお知らせ
ローソン
コンビニ大手のローソンでも、ダイナミックプライシングの導入が検討されています。同社は、経済産業省と共同で電子タグに関する実証実験を2019年に実施し、その中で電子タグを活用したダイナミックプライシングの施策を試験的に導入しました。
仕組みとしては、商品の消費期限を電子タグで管理し、消費期限が近い商品の情報をLINEで利用者に通知、利用者がその商品を購入すると、LINEポイントという形で価格の一部が還元されるというものです。この施策は、在庫の最適化と食品ロスの削減を目的としています。
商品の金額を変更するのではなく、購入後にポイントで還元するという点が他社の事例と異なる点と言えるでしょう。ポイント還元という形を取ることで、継続的に利用してもらえるような仕組みになっています。
参考:電子タグを用いた情報共有システムの実験
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営するユー・エス・ジェイは、2019年1月から日本の大手テーマパークで初めて、入場料にダイナミックプライシングを採用しました。混雑状況やシーズンに応じて、入場料が最大1,000円前後変動する仕組みとなっています。近年、来場者数が増加し続けていることから、混雑緩和による顧客満足度アップのねらいがあるとのことです。
なお、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、「ユニバーサル・エクスプレス・パス」と呼ばれる、待ち時間短縮のためのチケットの販売でもダイナミックプライシングを導入しています。
ECにおけるダイナミックプライシングのポイント
最後に、EC事業者がダイナミックプライシングを導入する際に理解しておくべきポイントについて解説します。
ECはダイナミックプライシングに適している
まず、ECはダイナミックプライシングに適していると言えます。ECにおいては、利用者はさまざまなサイトの商品を比較して買い物をしています。よって、競合他社よりも安い価格を設定することによる効果は、実店舗での販売よりも大きいのです。また、価格の変更を実店舗よりも簡単に実施できることから、頻繁に価格を変更する場合でもスムーズに対応できるというメリットもあります。
ツールを上手く活用することが重要
そして、ダイナミックプライシングを導入するうえで欠かせないのが、ツールやシステムの存在です。この記事でも説明したとおり、ダイナミックプライシングの価格設定の仕組みは複数存在しています。ひとえにダイナミックプライシングを実現するためのツールといっても、種類はさまざまです。単にこれまで実施していた手動の価格変更を自動にしたいのか、販売データをもとに価格変更できるようにしたいのか、機械学習を用いた需要予測まで行いたいのかで必要なツールは変わります。
導入の目的があいまいだと、コストがかかるばかりで、意図した結果を得られないこともあります。導入に際しては、ダイナミックプライシングで何を実現したいのかを明確にしておきましょう。
まとめ
現代では、需要と供給のバランスは目まぐるしく変動しています。ダイナミックプライシングは、そんな中でも利益を最大化するための一つの解決策と言えるでしょう。また、今後は機械学習などの技術発展が進み、消費者の購買意欲に基づいた、より効果的なアルゴリズムを持ったツールが開発されていくことも期待されています。
一方で、課題もあります。ダイナミックプライシング導入によって利益を最大化するためには、顧客の理解が欠かせません。消費者に対するアピールが不十分なままに導入を進めれば、利益を重視して顧客のことを考えていないと指摘を受けることもあるでしょう。ダイナミックプライシングの導入により、消費者にどのようなメリットがあるのかを説明し、双方にとって利益のあるシステムだと理解してもらうことが重要です。